
二酸化塩素をうたう消臭剤には大きく2種類あります。
二酸化塩素そのものを含むものと、亜塩素酸ナトリウムを主成分として「安定化二酸化塩素」と呼ばれているもので、それぞれ別の物質です。
そして「安定化二酸化塩素」は、正式な物質名ではありません。各社がそう呼んでいる呼び名で、中身も放出のしかたも製法によって違います。
もうひとつ。空間に置いてウイルスや菌を除去できるとする表示には、消費者庁が措置命令を出しています。
「安定化二酸化塩素」は物質名ではない
二酸化塩素(ClO₂)は塩素の酸化物で、気体です。酸化する力が強く、水処理や漂白に使われてきました。
一方、「安定化二酸化塩素」という名前の物質は、化学の側にありません。亜塩素酸ナトリウムなどを主成分とする水溶液を、販売する側がそう呼んでいるものです。酸や紫外線に触れると二酸化塩素を出す、という性質があります。
ここから2つのことが出てきます。
放出のしかたが各社で違う。どれだけの二酸化塩素が、どういう条件で出るのかは製法によって変わります。「安定化二酸化塩素」という表記からは、そこが読み取れません。
二酸化塩素そのもののデータが、別のものの説明に使われうる。気体の二酸化塩素で得られた数字と、亜塩素酸ナトリウム水溶液の製品は同じものではありません。
「名前が中身を特定しない」という構造は、このサイトで繰り返し出てきます。「植物性」は原料の分類で作用の分類ではないのも、「次亜塩素酸水」という名前が規格を意味しないのも同じ形です。表示の言葉は、成分の分類でも、性能の保証でもありません。
空間に置く使い方には、措置命令が出ている【重要】
ここは重要なところです。
消費者庁は、二酸化塩素による空間除菌をうたう商品について、複数の事業者に景品表示法に基づく措置命令を行っています。
- 令和3年12月、二酸化塩素による空間除菌を標ぼうする商品の販売事業者4社に対して措置命令
- 令和4年1月と4月、別の事業者の6商品に対して措置命令
- 令和5年4月、そのうち5商品について6億744万円の課徴金納付命令
理由は一貫しています。空間に浮遊するウイルスや菌を除去できるかのように示していたが、それを裏づける合理的な根拠を伴う資料が提出されなかった、というものです。
命令を受けた事業者は差し止めを求めて争いましたが、令和4年4月に東京高裁が認めず、翌月に違反を認めています。
密閉した箱の中で測ったデータが提出されても、実際に人が生活する空間の根拠としては認められませんでした。
このサイトは、空気清浄機やオゾンの記事でも、空間に散布する使い方について公的資料が推奨していないことを書いてきました。二酸化塩素は、そのなかで行政処分という形で決着がついている例です。
なお、厚生労働省・経済産業省・消費者庁の特設ページも、人がいる環境に消毒や除菌効果をうたう商品を空間噴霧して使用することは推奨されないとしています。
亜塩素酸ナトリウムという物質のこと
「安定化二酸化塩素」の主成分です。日常で名前を見かけないので、位置づけを整理しておきます。
毒物及び劇物取締法で劇物に指定されています。ただし、指定令には25%以下を含有するものを除くという但し書きがあります。市販の消臭剤はこれを大きく下回るので、劇物には当たりません。
「劇物だから危険」でも「劇物でないから安全」でもなく、濃度で線が引かれているということです。
食品添加物としても指定されています。漂白剤としての指定で、使える食品が限られています。そして使用基準に、使用した亜塩素酸ナトリウムは最終食品の完成前に分解し、又は除去しなければならないとあります。
食品添加物に指定されていることは、残してよいという意味ではありません。ここは「次亜塩素酸水」の記事で書いたことと同じで、食品添加物の指定は「食品にどう使ってよいか」の判断であって、性能や安全性の順位ではありません。
酸と接触すると二酸化塩素を放出します。自治体の資料は、この放出が爆発性を伴うと書いています。高濃度の話ではありますが、酸性のものと同じ場所で使わないという原則は、塩素系全般と同じです。
においに対して何が起きるのか
二酸化塩素は酸化する側の物質です。においの分子に対しては、酸化して別の物質に変えるという形になります。オゾンや次亜塩素酸と同じ位置づけです。
このサイトの3段階モデルでいえば、いちばん下流です。
材料 → 菌が分解 → におい

働くのは右端の「におい」に対してで、材料が残っていれば出続けます。置いておくだけの使い方で届きにくいのも、重曹や茶葉と同じ理由です。においの分子のほうから来て、触れる必要があります。
そのうえで、上の2節のとおり、空間に置いて浮遊するものを除去するという説明には、根拠が認められていません。
表示から何が読み取れるか
見るところは、他の消臭剤と変わりません。
成分欄に何が書いてあるか。「二酸化塩素」なのか「亜塩素酸ナトリウム」なのか。「安定化二酸化塩素」としか書かれていない場合、それは物質名ではないので、何がどれだけ入っているかは決まりません。
どういう使い方の製品か。空間に置くものなのか、対象にかけて拭き取るものなのか。前者については、上のとおり行政処分が出ています。
挙げられているデータが、その製品のものか。二酸化塩素の気体で得られた数字と、亜塩素酸ナトリウム水溶液の製品は、同じものではありません。
使用期限と保管条件。二酸化塩素は時間とともに失われます。期限が短いこと自体は、製品の欠陥ではなく性質です。
まとめ
- 「二酸化塩素」と「安定化二酸化塩素」は別のもの。後者は亜塩素酸ナトリウムなどを主成分とする水溶液で、「安定化二酸化塩素」という物質名は化学の側にない
- 放出のしかたは製法によって違う。表記からは中身が決まらない
- 空間に置いてウイルスや菌を除去できるとする表示には、消費者庁が複数の事業者に措置命令を出している。課徴金納付命令に至った例もある。理由は、空間に浮遊するものを除去できることの合理的な根拠が示されなかったこと
- 亜塩素酸ナトリウムは劇物に指定されているが、25%以下を含有するものは除かれる。濃度で線が引かれている
- 食品添加物としても指定されているが、最終食品の完成前に分解または除去することが使用基準に定められている。食品添加物であることは、残してよいという意味ではない
- 酸と接触すると二酸化塩素を放出する。酸性のものと同じ場所で使わない
- においには酸化して別の物質に変える側として働く。流れの一番下流で、材料が残っていれば出続ける
- 表示で見るのは、成分欄の物質名/置くものかかけるものか/挙げられたデータがその製品のものか/使用期限と保管条件
参考文献
行政処分
- 消費者庁「二酸化塩素による空間除菌を標ぼうする商品の販売事業者4社に対する景品表示法に基づく措置命令について」
- 消費者庁「大幸薬品株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」
- 消費者庁による課徴金納付命令(令和5年4月11日、6億744万円) ※報道経由。
- 東京高等裁判所の決定(令和4年4月13日、仮の差し止めを認めず) ※報道経由。
制度・物質
- 厚生労働省・経済産業省・消費者庁 特設ページ「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」
- 毒物及び劇物指定令(昭和40年政令第2号)第二条 ※亜塩素酸ナトリウム及びこれを含有する製剤。25%以下を含有するものを除く
- 食品安全委員会「添加物 亜塩素酸ナトリウムの使用基準改正に係る食品健康影響評価に関する審議結果」 ※使用基準、最終食品の完成前に分解または除去
- 滋賀県薬務課 毒物劇物関係資料 ※酸との接触による二酸化塩素の放出


