
重曹について、よく聞かれることをまとめました。
グレードの違い、つくりかた、飲用については別のページで扱っています。

ベーキングパウダーとの違い
重曹の英語名は baking soda(ベーキングソーダ)で、ベーキングパウダーと混同されがちです。
ベーキングパウダーは、重曹に酸性剤などを加えたものです。中身の膨らませる成分は重曹そのものなので、別物というより「重曹+α」という関係になります。
なぜ酸を足すのか。重曹は加熱すると炭酸ガスを出して、炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)に変わります。これが残るとアルカリ性になり、苦味が出て、生地が黄色っぽくなります。ベーキングパウダーの酸性剤は、これを中和するために入っています。
そのため、重曹だけで膨らませるのは、もともと生地に酸性の材料(ヨーグルト、はちみつ、ココアなど)が入っている場合や、多少の色と風味が問題にならない場合に向きます。分量は同じではないので、レシピの指定に従ってください。
セスキ炭酸ソーダ・炭酸ソーダとの違い
セスキは「重曹が地中にある形」ではない
セスキ炭酸ソーダは、炭酸ソーダと重曹が1対1で組み合わさった別の化合物(複塩)です。化学式は Na₂CO₃・NaHCO₃・2H₂O と書きます。
天然にはトロナという鉱物として産出し、アメリカ・ワイオミング州などに大きな鉱床があります。ソーダ灰の原料としても使われています。
重曹がそのまま地中でセスキの形になっている、ということではありません。重曹と炭酸ソーダの両方を含んだ別の物質です。
アルカリの強さが違う
| pHの目安 | 研磨作用 | |
|---|---|---|
| 重曹 | 8程度 | あり |
| セスキ炭酸ソーダ | 10程度 | なし |
| 炭酸ソーダ | 11程度 | なし |
アルカリが強いほうが、油汚れや皮脂のような酸性の汚れには働きやすくなります。一方で、強いほど手肌への刺激も強くなります。どちらが優れているという話ではなく、性質が違います。
重曹だけが研磨作用を持つのも、使い分けの理由になります。
加熱すると、重曹は炭酸ソーダに変わる
重曹の水溶液は、65℃以上に熱すると炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)になります。煮立てるとアルカリが強くなるのは、別の物質に変わっているからです。
つまり「重曹を煮立てて洗浄力を上げる」は、化学としては正しい話です。ただし、
- できあがるのは炭酸ソーダなので、刺激も炭酸ソーダのものになります。素手で扱わないでください
- 反応がどこまで進んだかは見た目で分かりません
- 炭酸ソーダを買って薄めれば、同じ液が手間なく作れます
「弱アルカリ性だから安心」は、加熱した時点で当てはまらなくなります。
使わないほうがいい素材
アルミ製品
アルミの表面には、腐食を防ぐ酸化被膜があります。この被膜はアルカリに侵されるため、重曹でこすると黒ずむことがあります。
アルミ鍋、アルミサッシ、アルミ弁当箱などには使わないほうが無難です。
銅・真鍮
変色のおそれがあります。使った場合は、重曹が残らないように水でしっかり洗い流してください。
真珠・やわらかい素材
真珠には使わないでください。ただし、理由は「重曹がカルシウムを溶かすから」ではありません。
炭酸カルシウムを溶かすのは酸であって、アルカリではありません。重曹で問題になるのは、研磨作用のほうです。
真珠の光沢は薄い層でできているので、細かい傷が集まると曇って見えます。塗装面、鏡、樹脂、漆器なども同じ理由で避けたほうがよい対象です。
白い粉が残るのはなぜか
重曹水をスプレーしたり、布巾で拭いたりしたあと、白い点が残ることがあります。これは、水分が蒸発して溶けていた重曹が出てきているだけです。汚れではありません。
防ぐ方法は2つあります。
- 水でしっかり流す(二度拭きでも構いません)
- 酢やクエン酸で中和する … 水で流せない家具や電化製品で使えます。酢は2〜3倍の水で薄め、クエン酸は水約1カップに小さじ1杯を溶かして、吹き付けて拭き取ります
なお、酸性のものは塩素系の製品と混ぜないでください。有害な塩素ガスが出ます。市販品に「まぜるな危険」の表示があるのはこのためです。
重曹に殺菌効果はない
掃除に使われるので殺菌力があると思われがちですが、家庭で細菌やウイルスを減らす目的に、重曹は向きません。
ややこしいのは、農業では重曹が特定防除資材(殺菌剤)として扱われていて、うどんこ病や灰色かび病といった植物の病気を対象にした用途があることです。これは対象も濃度も別の話で、台所やドアノブの除菌に読み替えられるものではありません。
除菌が目的なら、その用途で承認された製品を使ってください。
除湿剤の代わりにはならない
「密閉していない容器に入れておくと固まるから、湿気を吸うのだろう」と考えている方がいます。固まる理由は、実際そのとおりです。安全データシートには、吸湿性があり、空気中の水分を吸収して分解し炭酸ナトリウムを生成する。吸湿すると固結すると記載されています。
ただし、吸う量が違います。シリカゲルや塩化カルシウムは、水分を大量に抱え込むように作られた製品です。重曹は表面が湿って固まる程度で、下駄箱やクローゼットの湿気を引き受けられる量ではありません。
「まったく吸わない」でも「除湿剤になる」でもない、というのが正確なところです。
消火に使われているのは本当
重曹は加熱で炭酸ガスを出すため、消火薬剤として実際に使われています。メーカーの用途一覧にも消火薬剤が挙がっています。
ただし、家庭で消火器の代わりを用意する話ではありません。火災の場合は消火器と119番です。
溶ける量には上限がある
重曹水をつくるとき、たくさん入れても一定量より先は溶けずに残ります。
溶ける量は水温で大きく変わります。水100gに対して、0℃で約6.9g、20℃で約9.6g、60℃で約16.4gです。
「100ccに8gまで」といった一つの数字で覚えると、冷たい水では溶け残り、温かい水では実際より少なく見積もることになります。
溶け残るまで入れても、水溶液の濃さはそこで止まります。それ以上足した分は、底に沈んでいるだけ。ただし、粉のままペースト状にして磨く使い方は、溶かす話とは別になります。
保存と使いはじめの目安
適しているのは冷暗所での密閉保存です。安全データシートでも、避けるべき条件として高温、湿気、日光が挙げられています。
長く置くと、湿気を吸って少しずつ炭酸ナトリウムに変わり、アルカリ度が上がっていきます。掃除用途では大きな支障になりませんが、アルカリが強くなるぶん、手肌への刺激は増えます。
そして、古くなったかどうかを味見で判断しないでください。掃除用のグレードは口に入れる前提の製品ではありません。判断がつかないものは、掃除用に回すか、買い替えるほうが早く済みます。
まとめ
- ベーキングパウダーは重曹+酸性剤。酸は、残った炭酸ソーダの苦味と黄色みを抑えるために入っている
- セスキ炭酸ソーダは「重曹の天然の形」ではなく、重曹と炭酸ソーダの複塩
- アルカリの強さは 重曹8<セスキ10<炭酸ソーダ11 程度。強いほど汚れに働き、手肌への刺激も強い
- 重曹水は65℃以上で炭酸ソーダに変わる。煮立てた液は「弱アルカリ性だから安心」ではない
- アルミは黒ずむ。真珠を避ける理由は溶けるからではなく、研磨作用のため
- 白く残るのは重曹そのもの。水で流すか、酸で中和する(塩素系とは混ぜない)
- 家庭の除菌に重曹は向かない。農業の殺菌剤としての登録は、対象が植物の病気
- 吸湿はするが、除湿剤の代わりになる量ではない
- 溶ける量は水温で変わる。溶け残りは効いていない分

参考文献
- 「炭酸水素ナトリウム」安全データシート(SDS)― 吸湿性、分解条件、避けるべき条件
- 「炭酸水素ナトリウム」『化学辞典(第2版)』森北出版 ― 溶解度、水溶液を65℃以上に熱すると炭酸ナトリウムになること
- 株式会社トクヤマ「重炭酸ナトリウム(重曹)」製品情報(用途一覧に消火薬剤、特定防除用資材を掲載)
- 「トロナ」『世界大百科事典』ほか ― 天然ソーダの組成 Na₂CO₃・NaHCO₃・2H₂O
- 消費者庁「雑貨工業品品質表示規程」(塩素ガス発生に関する特別注意事項「まぜるな危険」の表示)


