
「植物由来」「天然成分」と書いてあるとき、そこから分かるのは原料だけです。においがどう減るのかは、この言葉では決まりません。
同じ植物由来の成分でも、別の香りをかぶせて感じにくくするものと、においの分子と反応して別の物質に変えるものがあり、それぞれやっていることが違います。
「植物性」は原料の分類で、効き方の分類ではない
家庭用の芳香剤・消臭剤・脱臭剤は、医薬品や医薬部外品ではありません。
芳香消臭脱臭剤協議会は、これらが薬機法などの法的規制の対象外であるため、業界として自主基準を定めたと説明しています。
その自主基準では、品名の区分が4つ定められています。
| 区分 | 品名を示す文字 |
|---|---|
| 空間に芳香を付与するもの | 芳香剤 |
| 臭気を化学的作用又は感覚的作用等で除去又は緩和するもの | 消臭剤 |
| 臭気を物理的作用等で除去又は緩和するもの | 脱臭剤 |
| 他の物質を添加して臭気の発生や発散を防ぐもの | 防臭剤 |
分け方の軸は「どういう作用でにおいを減らすか」です。「植物由来かどうか」は、この軸のどこにも入っていません。
実際、協議会が手引きに載せている処方例では、植物抽出エキスは消臭剤にも芳香剤にも出てきます。手引きの表示例のひとつは「品名:芳香剤 用途:室内用 成分:香料、植物抽出物、エタノール、非イオン界面活性剤」となっていて、芳香剤にも植物抽出物が入っています。
つまり「植物由来だから消臭剤」ではありません。原料の軸と作用の軸は別の軸です。
香りをかぶせる方法は、においの分子を減らしていない
作用のうち、感覚的作用と呼ばれるものには2つあります。
マスキングは、協議会の手引きが用語として説明しています。他の香りで臭気を覆い、感じなくさせる方法です。
ペアリングは、悪臭とは別のにおいの物質を同時に発散させ、新しいにおいの感覚を作ることで悪臭を感じにくくさせる方法だと説明されています(日本化学会フェローによる解説記事の記述。協議会の自主基準や手引きには、この語の定義は載っていません)。
どちらも、変えているのは感じ方です。においの分子そのものは空気中に残っています。
これは欠点ではなく、目的が別だということ。においの分子を減らしたいときの選択肢ではなく、香りを足したいときの選択肢になります。
自主基準が芳香剤を「空間に芳香を付与するもの」として別の区分に置き、消臭剤でも芳香を伴うものには「芳香」の併記を求めているのは、この2つが表示の上で分けられているということです。
「消臭剤」の2文字では、どちらか決まらない
ここに、資料によって食い違うところがあります。
| 消臭剤に感覚的作用が含まれるか | |
|---|---|
| 芳香消臭脱臭剤協議会の自主基準(平成30年改定) | 含まれる(化学的作用又は感覚的作用等) |
| 厚生省の説明として紹介されているもの(平成12年の手引き) | 含まれない(化学的・生物的作用等。感覚的なものは防臭剤) |
現行の業界自主基準では、香りをかぶせるタイプも「消臭剤」と表示できます。「消臭剤」と書いてあることは、においの分子が減っていることを意味しません。
ただし、自主基準には「消臭剤の区分に該当するものであって、芳香を伴うものは『芳香』の文字を併記すること」という決まりがあります。「芳香消臭剤」と併記されていれば、香りを足していることは表示から読み取れます。
パッケージのどこを見るか
自主基準が表示を求めている項目は決まっています。順に見ていくと、読み取れることと読み取れないことがはっきりします。
品名 … 芳香剤/消臭剤/脱臭剤/防臭剤。複数の区分に当てはまるものは併記されます。ここが作用の欄です。
用途 … 室内用、トイレ用、冷蔵庫用、自動車用など。
成分 … 有効性を発揮する成分とその他の主要な成分を、一般名または化学名で表示することになっています。ただし、多成分の混合物や、成分の特定が化学的に不可能な場合は、総称名で表示してよいという但し書きがあります。自主基準が総称名の例として挙げているのが、「香料」「植物精油」「植物抽出物」です。
つまり、成分欄の「植物抽出物」は、自主基準が認めている書き方です。何がどれだけ入っているかが分からないのは、表示の不備ではなく、そういうルールになっています。
使用期間・使用方法・注意表示 … 注意表示の項目には「人体に使用しないこと」「用途以外に使用しないこと」が挙げられています。
「脱臭剤」と「防臭剤」に何が入っているか
品名の欄でいちばん見慣れないのがこの2つです。手引きの処方例を見ると、中身が分かります。
脱臭剤(置き型) … ヤシガラ活性炭、ゼオライト、シリカゲルを1種または複数組み合わせて容器に入れたもの。多孔質の材料ににおいの分子を吸着させる物理的作用です。
防臭剤 … パラジクロロベンゼンに粉末香料を加えたもの。
防臭剤は「発生を防ぐ」という言葉から想像される、菌や材料を減らす手段ではありません。しかも、この区分は定義の食い違いが最も大きいところです。
業界自主基準では「他の物質を添加して臭気の発生や発散を防ぐもの」、厚生省の説明として紹介されているものでは「他の香り等でマスキングするもの」となっています。後者の定義では、防臭剤は流れの一番下流に置かれます。
なお大阪府は、成分表示にパラジクロロベンゼンがある製品について、使用方法に気をつけ、換気を忘れないよう案内しています。
適合マークが意味していること
自主基準を満たした製品には適合マークが付きます。この点について、自主基準自身が次のように定めています。適合マークは基準への適合を意味するもので、個々の製品の絶対的な安全性・有効性・安定性を保証するものではない、と。
規格を定めている側が、規格の意味する範囲を自分で限定しています。
「天然だから安全」は、業界の自主基準でも認められていない
自主基準は、表示に使ってはいけない言葉を列挙しています。そこには「安全」「安心」「無害」「無臭」「無公害」「全く心配がない」が並んでいます。安全性を強調する用語を断定的に使うことはできない、というルールです。
「天然由来だから安心」と言い切る書き方は、業界のルールの側で認められていません。原料が植物であることは、この禁止を解除しません。
天然の精油にも、使用が禁止・制限されているものがある
香料の原料については、世界の香料業界が自主基準(IFRAスタンダード)を定めていて、日本の香料業界もこれに沿っています。協議会の手引きには、この基準で禁止・制限されている物質が抜粋されていますが、そこには植物から採った精油が複数含まれています。
物質名を挙げないのは、この基準が原則2年に1回改訂されるためです。現行版はIFRAのサイトで確認できます。ここで言えるのは、「植物から採ったもの」と「使ってよいもの」が同じ範囲ではない、ということです。
揮散する成分については分かっていないことがある
協議会の手引きは、揮散する成分を含む製品として、化粧品、香水、抗菌製品、芳香剤、アロマセラピー用の精油などを並べたうえで、これらの成分が顔などの皮膚に吸着して濃縮され、空気中のアレルギー性物質になりうると書いています。
さらに、揮散した成分は主に吸入によって体に入ると考えられるものの、吸入したときの毒性が調べられている例は少なく、今後の研究課題であるとしています。
規格を作っている側が、自分たちの扱う製品について、分かっていない範囲を明示しています。これは天然か合成かで分かれる話ではありません。
「フィトンチッド」は、においの消え方を説明する言葉ではない

植物由来をうたう製品で、しばしば出てくる語です。
もとは1930年ごろ、植物を傷つけると周囲の菌が死ぬ現象に対して付けられた名前で、「植物」と「殺す」を組み合わせた造語だと説明されています。
農林水産省の「消費者の部屋」は、植物が自分の身を守るために出す物質として説明し、周りの草を枯らしたり、葉を食べる虫を追いやったりする働きを挙げています。
この語の指す範囲は、資料によって違います。
- 揮発性の物質に限るとする説明
- 揮発しないものも含めるとする説明(農林水産省の説明は、根から出る物質も挙げています)
共通しているのは、植物が自分を守るために出す物質という点です。においを消す働きを指した言葉ではありません。
したがって「フィトンチッド配合」から読み取れるのは、植物由来の成分が入っているらしいということまでです。何のにおいに、どういう作用で働くのかは、この語からは決まりません。品名の欄と成分の欄を見るほうが判断の材料になります。
なお、森林の中で測った研究があることと、部屋の中で製品を使ったときに同じことが起きることは、別の話です。濃度も接している時間も、条件が違います。
どの種類を選んでも、においの流れの一番下流にしか働かない
においは、材料があって、菌がそれを分解して生まれます。
材料 → 菌が分解 → におい

芳香剤・消臭剤・脱臭剤・防臭剤は、どれも一番右側、すでにできたにおいの側に働きます。区分の名前に「防」の字が入っていても、材料や菌の側に戻るわけではありません。材料が残っていれば、においは出続けます。空気清浄機やオゾン、重曹、茶殻も同じ位置です。

これは、大阪府が家庭用品の解説ページに書いていることでもあります。消臭や防臭には、まずにおいの原因を除去することが先決で、原因を除去してから消臭剤などを使うように、という書き方です。
製品を替えるより先に、材料のほうを見る。
- 何がにおいのもとになっているのか → 悪臭の原因菌は場所ごとに違う
- 家庭のにおいにどんな物質があるのか → 「特定悪臭物質22物質」は家庭のにおいの一覧ではありません
- 機器で対処しようとするとき → 猫のにおいと空気清浄機・オゾン
動物やこどもがいる家庭で先に確認すること
猫がいる場合は、精油を避ける
猫はグルクロン酸抱合という代謝の経路を持たず、精油の成分を処理できません。
成分表示に「植物精油」「香料」とある製品は、猫のいる部屋では使わないという判断になります。総称名で書かれているため、何が入っているかは表示から特定できません。
猫以外の動物については、当サイトでまだ扱えていません。そのうえで言えることが1つあります。成分が総称名で書かれている以上、その動物にとって問題になるものが入っているかどうかは、表示から確かめようがありません。
動物のいる部屋で揮散するものを使う前に、かかりつけの動物病院で確認するのが確実です。
詳しくは重曹はペットの体には使えない?で扱っています。
誤飲・誤食が事故の中心になっている
協議会の手引きは、国内で報告された健康被害の大半が、0〜5歳の乳幼児と60歳以上の高齢者による誤食・誤飲だとまとめています。ゲルタイプの製品には食品と混同されやすい形状・中身のものがあることも、手引き自身が挙げています。
置き場所を決めるときは、香りの届く範囲ではなく、手の届く範囲で考えることになります。
スプレー・エアゾールは置き場所と捨て方
手引きには、人が近くにいるときに自動噴射型の製品が作動して眼に入った事例、廃棄しようとして缶に穴を開け、残液が顔にかかった事例が挙げられています。
噴射口を人に向けない、設置場所に気をつける、使い切ってから捨てる、というのが手引きと日本エアゾール協会の示している扱い方です。
香りを足す製品は、周りの人にとって別の問題になる
消費者庁は、香り付き製品の香りによって頭痛や吐き気といった体調不良の症状が現れると訴える相談が消費生活センターなどに寄せられていることを公表しています。
挙げられている相談事例には、衣類の消臭剤のにおいで頭痛や吐き気がするというものが含まれています。
消費者庁が示しているポイントは3つです。
- 香りの感じ方には個人差があり、自分にとって快適な香りでも困っている人がいる
- 製品の表示に従い、使用量の目安を参考にする
- 多くの人が利用する公共の場所では、より一層周囲に配慮する
消費者庁ほか関係省庁は、連名で啓発ポスターを作成しています。
協議会の手引きも、設計段階で考慮すべき要件として、香りの感じ方には個人差があるため、使用・設置する人以外の周囲の人への影響も考えて設計するように書いています。
マスキングとペアリングは、感じ方を変える方法です。感じ方が違う人には、違う結果になります。
まとめ
- 「植物由来」「天然成分」は原料の分類。においがどう減るかは、この言葉からは決まらない
- 作用の分類は品名の欄にある。芳香剤/消臭剤/脱臭剤/防臭剤の4区分で、業界の自主基準が定めている
- 「消臭剤」に感覚的作用(マスキング・ペアリング)が含まれるかは、資料によって食い違う。現行の業界自主基準では含まれる
- 香りをかぶせる方法は、においの分子そのものは減らしていない。欠点ではなく目的が別で、香りを足したいときの選択肢。「芳香」の併記があれば、香りを足していることは表示から読み取れる
- 成分欄の「香料」「植物精油」「植物抽出物」は自主基準が認めている総称名。中身は表示から特定できない
- 「安全」「安心」「無害」を断定的に使うことは、業界の自主基準が禁じている。天然由来でも同じ
- 香料の国際的な自主基準には、植物から採った精油も禁止・制限の対象に入っている
- 揮散した成分を吸入したときの毒性は、規格を作っている側が「調べられている例が少ない」と書いている
- 「フィトンチッド」は、植物が自分を守るために出す物質を指した語。においを消す働きを指す言葉ではなく、指す範囲も資料によって違う
- どの種類も、材料→菌→においの一番下流にしか働かない。材料が残っていれば出続ける
- 猫のいる部屋では精油を避ける。事故の中心は乳幼児と高齢者の誤飲・誤食。置き場所は手の届く範囲で考える
- 香り付き製品は、周囲の人にとって別の問題になりうると、消費者庁が公表している
参考文献
製品の区分・表示・安全確保
- 芳香消臭脱臭剤協議会「一般消費者用 芳香・消臭・脱臭剤の自主基準」平成30年11月19日改定
- 芳香消臭脱臭剤協議会「家庭用芳香・消臭・脱臭・防臭剤 安全確保マニュアル作成の手引き(新版)」平成30年11月19日
- 大阪府「芳香・消臭・防臭・脱臭剤」(有害物質を含有する家庭用品の規制)
- 田島慶三「3-10 香料・消臭剤・脱臭剤の特徴と分類」化学製品・高分子製品の基礎講座 ※厚生省の説明と業界自主基準の定義の対比、およびペアリングの説明はこの記事による。
香りへの配慮
- 消費者庁「みんなの消費安全ナビ from 消費者庁」Vol.679 知ってください!その香り困っている人もいます(2026年2月16日)
- 消費者庁ほか関係省庁 連名ポスター「その香り困っている人もいます」
フィトンチッド


