
重曹は重炭酸曹達(ソーダ)の略で、炭酸水素ナトリウム(NaHCO₃)とも呼ばれる白い粉です。
同じ「重曹」という名前で売られていますが、用途別にグレードが分かれていて、精製度が違います。掃除用の重曹は、食べたり飲んだりすることを想定した製品ではありません。
重曹には4つのグレードがある
国内メーカーは、重曹を用途別に分けて出荷しています。
- 医薬用(日本薬局方) … 胃腸薬、人工透析剤、薬用入浴剤など
- 食品添加物用 … 製菓、ベーキングパウダー、あく抜きなど
- 工業用 … 洗浄、排ガス処理、消火薬剤など
- 飼料用
違いは主に精製度です。医薬用が最も高く、掃除に使われるものは低くなります。中身の化学物質は同じでも、不純物の管理と保証している基準が違います。
どのグレードかは、パッケージの表示で分かります。「食品添加物」「日本薬局方」と書かれていなければ、口に入れる前提の製品ではありません。
つくりかた
「天然の原料からできている」とはよく言われますが、白い粉のまま埋まっているわけではありません。

世界のソーダ工業の基本 ― ソルベー法
炭酸ナトリウム(ソーダ灰)の工業的製法として19世紀に確立したのが、ソルベー法(アンモニアソーダ法)です。ベルギーのソルベーが1861年に特許を取りました。
濃い食塩水にアンモニアを吸収させ、そこへ石灰石を焼いて得た炭酸ガスを吹き込むと、炭酸水素ナトリウム=重曹が沈殿します。これを取り出して焼くと、目的物のソーダ灰になります。
つまりこの製法では、重曹はソーダ灰をつくる途中で出てくる中間生成物です。そして電気分解は使いません。電気分解が要らないことが、この方法の利点として挙げられています。
日本のメーカーがつくっている重曹
国内で流通している重曹は別の経路です。メーカー各社は、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)に炭酸ガスを反応させて製造していると説明しています。
その苛性ソーダは、食塩水を電気分解して得られるものです。整理すると、こうなります。
食塩水 →(電気分解)→ 苛性ソーダ →(炭酸ガスを吹き込む)→ 重曹の結晶
「食塩水を電気分解すると重曹ができる」ではありません。電気分解でできるのは苛性ソーダで、そこに炭酸ガスを反応させる工程が別に必要です。ちなみに、同じ食塩の電気分解からは次亜塩素酸ナトリウムもつくられます。
このほか、天然のソーダ鉱石を原料にしたものもあります。国内メーカーが自社製品を「天然由来品に比べて純度が高い」と説明しているのは、この違いを指しています。
「弱アルカリ性」が指しているもの
重曹は弱アルカリ性です。メーカーは、ナトリウム化合物のなかでは最も弱いアルカリ性(pHはおよそ8)と説明しています。
ここで注意したいのが、よく見かける下の区分表です。
| pH | 用語 |
|---|---|
| 11.0を超えるもの | アルカリ性 |
| 11.0以下 8.0を超えるもの | 弱アルカリ性 |
| 8.0以下 6.0以上のもの | 中性 |
| 6.0未満 3.0以上のもの | 弱酸性 |
| 3.0未満のもの | 酸性 |
これは家庭用品品質表示法にもとづく「雑貨工業品品質表示規程」で、洗剤や洗浄剤のパッケージに液性を表示するために定められた区分です。物質一般を分類するための表ではありません。
測り方まで決まっています。液体は原液で、粉末のものは水1リットルに50グラム溶かした液について、25℃で測ることになっています。
つまり「重曹は弱アルカリ性」は、決められた濃度に溶かしたときの話です。粉のままの重曹に「pH」という数字があるわけではなく、濃く溶かすか薄く溶かすかでも変わります。この表を使って醤油やヨーグルトを分類することもできません。
安全性
当サイトでは、飲む量の目安を書きません
重曹の飲用について、具体的なグラム数を挙げている情報を見かけます。この記事では書きません。理由は3つあります。
1. 医薬品としての使い方が、別に定められているためです。炭酸水素ナトリウムは医療用医薬品でもあり、添付文書に効能・効果、用法・用量、そして禁忌が定められています。
禁忌にはナトリウム摂取制限が必要な方(高ナトリウム血症、浮腫、妊娠高血圧症候群など)が挙げられています。加えて、腎機能障害や心機能障害のある方は、ナトリウムが体に貯留して症状が悪化するおそれがあるとして注意が必要な患者に含まれています。用量だけを取り出して紹介すると、どういう人が飲んではいけないかが伝わりません。
2. 掃除用の重曹は、飲用を想定した製品ではないためです。先に書いたとおり、精製度と保証している基準が違います。
3. 当サイトの守備範囲ではないためです。体内に入れる話は、医師や薬剤師に確認してください。
「天然だから無害」ではない
「元々体の中にある成分だから」「天然素材だから」という説明を見かけますが、由来は安全性の根拠になりません。
炭酸水素ナトリウムには、医薬品として使われる際の副作用としてアルカローシスやナトリウム蓄積による浮腫が挙げられており、禁忌も設定されています。
胃酸を抑える目的で使われる薬なのに、胃酸が二次的に分泌されるリバウンド現象も副作用に挙がっています。「体内にある成分」であることと、外から大量に入れて問題ないことは別の話です。
なお、メーカーが「最もマイルドなアルカリ」と説明しているのは、ナトリウム化合物のなかで比べたときの話です。苛性ソーダや炭酸ソーダと比べて弱い、という意味であって、家庭にあるもの全般と比べた評価ではありません。
目と皮膚
弱アルカリ性なので、長時間肌についたままにしたり、目に入ったりするのは避けてください。
洗浄剤の表示ルールでは、万一飲み込んだり目に入ったりした場合には、応急処置を行って医師に相談する旨を製品に表示することになっています。同じ規程で、用途以外に使用しない旨の表示も求められています。掃除用として売られているものは、そういう位置づけの製品です。
掃除や消臭で使われる理屈
重曹が弱アルカリ性であることは、使われ方とつながっています。
においの成分には、酸性のものが少なくありません。生乾き臭の4-メチル-3-ヘキセン酸、足のイソ吉草酸、ワキのにおいの3-メチル-2-ヘキセン酸は、いずれも脂肪酸です。アルカリは酸を中和します。
逆に、アンモニアのような塩基性のにおいには、この理屈が使えません。アルカリにアルカリを足しても中和にはならないからです。

ただし、試験管の中で中和が起きることと、家庭で実際ににおいが減ることは同じではありません。濃度も接触時間も条件が違います。においに使う場合は、酸性であることに加えて、重曹が直接触れることも必要になります。

まとめ
- 重曹=炭酸水素ナトリウム。用途別に医薬用・食品添加物用・工業用・飼料用があり、精製度が違う
- 掃除用は口に入れる前提の製品ではない。どのグレードかはパッケージの表示で分かる
- 世界のソーダ工業の基本はソルベー法で、この方法は電気分解を使わない。重曹はソーダ灰をつくる途中の中間生成物
- 国内メーカーの重曹は、電気分解で得た苛性ソーダに炭酸ガスを反応させてつくられる。電気分解だけで重曹ができるわけではない
- pHの5区分は、洗剤・洗浄剤の表示ルール。物質一般の分類表ではなく、決められた濃度で測った値
- 「天然だから無害」は成り立たない。医薬品としては禁忌も副作用も設定されている
- 飲む量については、医師・薬剤師に確認を。

参考文献
製品・製法
- 株式会社トクヤマ「重炭酸ナトリウム(重曹)」製品情報
- 東ソー株式会社「重曹」製品情報
- AGC株式会社 化学品カンパニー「重曹」製品情報(製造方法・湿式法の解説を含む)
- 「アンモニアソーダ法」『日本大百科全書』(コトバンク経由で参照)
制度
医薬品
- 医療用医薬品「炭酸水素ナトリウム」添付文書(効能・効果、用法・用量、禁忌、副作用)


