
微生物系(バイオ系)の消臭剤は、このサイトで扱ってきた他の手段と、働く場所が違います。
重曹も茶葉も、そして空気清浄機も、すでにできたにおいの分子に働きます。微生物系は、そこではありません。においの材料と、においを作る菌のほうに働きます。
においの流れの、どこに入るのか
このサイトは、においの成り立ちを3段階で説明しています。
材料 → 菌が分解 → におい

生ゴミも、尿も、汗も同じです。材料そのものは無臭で、菌がそれを分解したときににおいが生まれます(悪臭の原因菌は場所ごとに違う)。
消臭剤の多くは、いちばん右の「におい」に働きます。すでに空気中にあるにおいの分子を減らす、あるいは感じにくくする。材料が残っていれば、においは出続けます。
微生物系は、ここに当てはまりません。左側に働きます。
- 材料の状態を変える(発酵を進める)
- においを作る側の菌が増えにくい状態にする
つまり、においを消しているのではなく、においが生まれにくい状態にしていることになります。
「菌が分解する」が、両方向に出てくる
ここが、この題材のややこしいところです。
このサイトでは「分解」を、菌が材料を分解して、においを作るという意味で使っています。ところが微生物系の説明では、同じ「菌が分解する」が、においを減らす側で出てきます。
主語も動詞も同じで、向きだけが逆。区別できるのは、どの菌が、何を、何に変えるかまで書いたときだけです。この記事では、においを減らす側については「分解」を使わず、材料を作りかえる、発酵を進めると書きます。
開発元が書いている注意
微生物系の資材として広く知られているものに、えひめAIがあります。愛媛県工業技術センター(現・愛媛県産業技術研究所)が平成11年に開発したもので、家庭でつくれる「えひめAI-2」の製造方法が県のページで公開されています。
酵母・乳酸菌・納豆菌を、砂糖などを使って発酵させた培養液です。県が公開している作り方には、できあがりの目安としてpH3〜4という数字が挙げられています。培養開始時が4〜5で、1週間後に3〜4まで下がれば成功、という書き方です。
乳酸発酵を含むので、酸性の液体になります。この点は後述します。
開発元である愛媛県産業技術研究所は、次の3点を注意として明記しています。
- 環境用資材なので、飲用や人体への使用は絶対に行わない
- 家庭などでの個人使用を前提としている
- 農薬登録をしていない。病害虫防除などの目的で使用することはできない
これは外から持ち込んだ批判ではなく、つくった側が書いている条件です。「微生物だから無害」という話にはなっていません。
「資材そのものに浄化する働きはない」
機序についても、公的機関の資料に踏み込んだ記述があります。
指宿市が配布しているマニュアルは、同系統の資材について、それ自体に環境浄化の機能はなく、適量を使うことで自然界にいる菌の働きを活性化させ、水質改善や悪臭の抑制につなげるものだと説明しています。
「入れた微生物がにおいを食べる」という説明とは内容が違います。もともとその場所にいる菌の側が変わる、という書き方です。
同じ資材について、自治体によって「人や動物には無害」と書いているページもあります。記述は一致していません。開発元の注意のほうが範囲を限定しているので、この記事はそちらに合わせています。
用途と法令上の位置づけは別
畜産分野で使う場合について、自治体のページは、家畜のふん尿に散布すると発酵が進んで期間が短縮され、ハエなどの発生抑制につながるとしています。そのうえで、殺虫剤としての効能はないと明記しています。
「結果としてハエが減る」ことと、「殺虫剤として使える」ことは別です。開発元が農薬登録をしていないと書いているのは、この線を引くためです。
時間がかかる理由と、向いている場所
微生物系は、スプレーしてすぐに変化が出るものではありません。
理由は機序から出てきます。材料が減るのを待つことになるからです。においの分子を直接減らす手段とは、そもそも時計が違います。
そのかわり、他の手段が届かない場所に向きます。
コンクリートの目地、土、木材の奥。ここに染み込んだ材料に対して、拭き取りは届きません。強力な除菌消臭剤も届かないところには働きません。表面を処理しても、奥に材料が残っていれば、においは出続けます。
微生物は、時間をかけてそこに広がります。届かないことが問題になっている場所ほど、他の手段との差が出ます。
猫や犬の尿のにおいが、屋外や玄関で消えにくいのは、材料が素材の奥に入っているためです。尿のにおいは、尿素が細菌に分解されてできたアンモニアです。
逆に、いま部屋に漂っているにおいを今すぐ何とかしたいという用途には向きません。そこは働く場所が違います。
資材そのものがにおいを持つ
開発元は、培養が成功した目安として「パンやお酒のような良い香り(発酵臭)」を挙げています。つまり、この資材自体がにおいを持っています。かければ、その分のにおいが加わります。
これは判断のうえでやっかいです。もとのにおいが減ったのか、別のにおいが重なっただけなのかが、その場では分かりにくくなります。確かめるのは、資材のにおいが引いてからになります。
なお開発元は、腐敗臭がする場合は雑菌が繁殖したと考えられるとも書いています。その場合は容器と器具を洗って作り直すことになります。
一度かけて終わり、ではない
開発元の作り方は、30〜40℃で1週間の培養です。生きた菌が増える前提の資材で、その条件がそろわなければ同じようには進みません。
自治体の案内も、定期的に継続して使用することを求めています。一度かけて終わる設計ではありません。
乾ききった場所や低温の屋外で、使用後にどこまで進むのか。これについては、公開されている資料で確認できていません。
表示から何が読み取れるか
微生物系の製品は、成分の書き方に幅があります。
「酵母」「乳酸菌」「納豆菌」のように菌の種類が書かれているものもあれば、「有用微生物群」「〇〇微生物群」といった総称だけのものもあります。
総称名からは、どの菌がどれだけ入っているかは読み取れません。これは、植物性をうたう製品の「植物抽出物」表示と同じ構造です。原料の由来や分類が書いてあることと、何が起きるかが書いてあることは、別です。
見るところは他の消臭剤と変わりません。
- どの菌が入っているかが書かれているか
- 使い方(そのまま置くのか、希釈するのか、希釈率はいくつか)
- 保存の条件と期限
保存については、公的機関のマニュアルが具体的です。原液は3か月を目安に使い切る、薄めたものは1か月以内に使い切る、上澄みだけを分けて冷暗所に置けば1年程度、といった書き方になっています。生きた菌を含むものなので、保存条件で状態が変わります。
使い方によって結果が大きく変わる製品でもあります。粉のまま置くのか、水で薄めてかけるのかで、材料に届くかどうかが変わるためです。製品の説明に書かれている使い方から外れると、機序が成り立たなくなります。
塩素系のものと、同じ場所で続けて使わない
前に触れたとおり、この種の資材は酸性です。えひめAI-2は、できあがりの目安がpH3〜4とされています。
そして、県が公開している使い方に挙がっている場所は、便器、流し台、浴槽、生ゴミです。
塩素系の洗浄剤を使う場所と重なります。
塩素系のものと酸性のものが混ざると、塩素ガスが発生します。国民生活センターが2026年3月に公表した住宅用塩素系洗浄剤の注意喚起には、次のような相談事例が挙がっています。
- 風呂掃除中に塩素系洗浄剤とクエン酸を含む製品を同時に使い、喉の痛みと頭痛
- パイプ洗浄剤を使っていったん水で流したあと塩素系の洗浄剤を使い、気分不良・喉の違和感・四肢のしびれで救急要請
「同時に使った」だけでなく、「流したあとに使った」でも起きています。混ぜるつもりがなくても起こります。
毎週トイレに入れる、流し台に入れるという使い方をしているなら、塩素系の洗浄剤と時間差で出会う場所が定期的にできることになります。同じ場所で両方を使わない、と決めておくほうが確実です。
そもそも、互いを減らす
安全の話とは別に、機序としても噛み合いません。
次亜塩素酸は有機物と反応して消費されます。だから次亜塩素酸系の使用方法は「汚れをあらかじめ落とす」から始まります。
微生物資材は、糖と菌体と発酵生成物の塊です。有機物そのものです。次亜塩素酸は対象に届く前にそちらで消費され、微生物の側も酸化を受けます。どちらか一方が残る話ではありません。
働く場所も違います。次亜塩素酸系は拭き取ってその場を一度リセットする使い方で、微生物系は定着して時間をかけることが前提です。併用ではなく、どちらの場面かを選ぶことになります。
人や動物には使わない
開発元が「飲用や人体への使用は絶対に行わない」と書いているとおりです。
これらの製品は雑貨で、医薬品でも医薬部外品でも動物用医薬品でもありません。効果や効能をうたって人や動物に使うことをすすめる行為は、薬機法に触れます。販売する側がすすめる場合も同じです。
微生物系の製品の中には、動物の口内炎などに使う方法を案内しているものがありますが、これは動物病院で相談する場面です。
猫や犬がいる場所で使う場合は、このサイトが他の記事で書いている条件と同じものが加わります。動物が口にしない場所であることです(重曹はペットの体には使えない?)。床や土にまいたものは、毛づくろいを通して口に入ります。
まとめ
- 微生物系は、においの分子ではなく、材料と、においを作る菌のほうに働く。このサイトで扱った手段の中では、働く場所が違う
- 「菌が分解する」が、においを作る側と減らす側の両方に出てくる。どの菌が何を何に変えるかまで書かないと区別できない
- すぐに変化しない。材料が減るのを待つことになるため
- 他の手段が届かない場所に向く。コンクリートの目地、土、木材の奥。表面を処理しても奥に材料が残ればにおいは出続ける
- 開発元の愛媛県産業技術研究所は、環境用資材であり飲用や人体への使用は絶対に行わない、農薬登録をしていないと明記している
- 公的機関のマニュアルは、資材そのものに浄化の機能はなく、もともといる菌の働きを活性化させるものと説明している
- 「ハエの発生抑制につながる」ことと「殺虫剤として使える」ことは別
- 「有用微生物群」などの総称からは、何が入っているか読み取れない
- 生きた菌を含むため、保存条件と期限で状態が変わる
- この種の資材は酸性。えひめAI-2はpH3〜4が目安で、使い方に挙がる場所は便器・流し台・浴槽・生ゴミ。塩素系の洗浄剤と同じ場所で続けて使わない。時間差でも塩素ガスは発生する
- 雑貨であり、効果効能をうたって人や動物に使うことをすすめる行為は薬機法に触れる。動物がいる場所では、口にしない場所であることが条件に加わる
参考文献
- 愛媛県産業技術研究所「えひめAI-2の製造方法について」
- 愛媛県産業技術研究所「えひめAI-1の概要について」
- 愛媛県産業技術研究所「『えひめAI-2』の作り方と使い方」(平成15年度研究成果)
- 指宿市「MAIENZA 利用マニュアル」 ※資材自体に環境浄化機能はないとする記述、保存条件
- 鬼北町「環境浄化微生物(えひめAI-1・えひめAI-2)」 ※畜産分野での用途、殺虫剤としての効能はないとする記述
- 国民生活センター「住宅用塩素系洗浄剤の使い方-まぜるな危険!浴室などで事故が発生しています-」


