
重曹(炭酸水素ナトリウム)はpH8.3前後の弱アルカリ性です。においを減らす仕組みは、アルカリが酸を中和するという一点にあります。
ここから、条件が2つ出てきます。
においが酸性であることと、重曹がそのにおいに直接触れること。どちらかが欠けると、あまり効果を発揮しません。
条件1|においが酸性であること
家庭のにおいには、酸性のもの、塩基性のもの、どちらでもないものが混ざっています。
| におい成分の例 | 重曹との関係 | |
|---|---|---|
| 酸性 | イソ吉草酸(足)、4-メチル-3-ヘキセン酸(生乾き)、汗や皮脂の脂肪酸 | 中和できる |
| 塩基性 | アンモニア(尿)、トリメチルアミン(魚) | 中和にならない |
| どちらでもない | 2-ノネナール(加齢臭)などのアルデヒド類 | 中和の対象外 |
アンモニア臭に重曹を足しても、中和にはなりません。アルカリ同士だからです。

条件2|においに直接触れること
ここが見落とされがちです。中和は、分子どうしが出会わないと起きません。
粉を瓶に入れて置いておく場合、空気に触れているのは表面のわずかな部分だけです。においの分子がたまたまそこに来て、しかも吸着して反応する必要があります。
比較したテストがあります。米国の料理研究誌が、同じ小型冷蔵庫2台に重曹1カップと活性炭ペレット1カップを置き、1か月にわたって刻んだ玉ねぎ、キムチ、パルメザンチーズ、ツナ缶などを入れて評価者に比べさせました。
結果は、活性炭のほうが明らかににおいが少なかったというものです。同誌は重曹について、接触した酸性の分子の構造を変えることで働くが、においが消えるのではなく別のにおいに変わるだけの場合もある、としています。
活性炭が強いのは、多孔質で表面積が桁違いに大きいからです。重曹は、においを捕まえるために作られた素材ではありません。
「置いておくだけ」は、いちばん条件が悪い使い方ということになります。
条件がそろう使い方
靴
足のにおいの主成分イソ吉草酸は酸性です。そして、粉を靴の中に直接入れれば触れます。2つとも満たします。
中敷きの上に薄く広げて、ひと晩置いてから取り除きます。掃除機を使うと簡単に除けますが、粉を吸わせることを想定していない機種もあるので、取扱説明書を確認してください。湿気を吸うので、乾かす目的も兼ねられます。
生ゴミ
三角コーナーやゴミバケツに直接かけます。触れるという条件は満たせます。
ただし、生ゴミのにおいは酸性の脂肪酸だけでなく、硫黄系や塩基性のものも混ざります。重曹が中和できるのはその一部です。水気を切って早く出すほうが、上流の対策になります。
布や衣類、カーペット
においのもとは汗や皮脂に由来する脂肪酸なので、条件1は満たします。
ふりかけてしばらく置き、取り除きます。こぼした液体を粉に吸わせて持ち去る使い方もできます。
拭き掃除
重曹水で拭けば、汚れと直接触れます。においの元になっている汚れそのものを減らすので、いちばん確実です。

条件がそろわない場面
冷蔵庫や下駄箱に置いておくだけ
条件2を満たしません。まったくの無駄ではありませんが、期待するほどは働きません。
置くタイプを求めるなら、活性炭のように吸着するために作られたもののほうが向いています。においの元(傷んだ食品、濡れた靴)を取り除くのが先であることも変わりません。
おむつバケツ、サニタリーボックス
ここは条件1で外れます。尿のにおいの中心はアンモニアで塩基性です。重曹を足しても中和にはなりません。
有効なのは、材料を減らすこと。尿の付いたものが残っているかぎり、ウレアーゼを持つ菌がアンモニアを出し続けます。密閉すること、早く出すこと。仕組みから考えると、こちらになります。

菌を抑える目的
重曹に殺菌を期待しないでください。家庭で細菌やウイルスを減らす目的には向きません。

気をつけたいこと
- 精油を足すのは、においを消すのとは別の話です。香りで覆う方法なので、元のにおいは残っています。また、猫のいる家庭では精油の使用を避けてください。猫は精油の成分をうまく代謝できないとされています。
- 使い終わった粉は捨てなくても構いません。性質は変わっていないので、そのまま掃除に回せます。
- 白い粉が残ったら、二度拭きするか、クエン酸や酢で拭き上げます。酸性のものは塩素系の製品と混ぜないでください。有害な塩素ガスが出ます。
まとめ
- 重曹の消臭は中和。条件は、においが酸性であることと直接触れることの2つ
- 酸性のにおい(足のイソ吉草酸、生乾きの4M3H、汗の脂肪酸)は中和できる
- アンモニアやトリメチルアミンは塩基性。中和にならない
- 加齢臭の2-ノネナールのように、どちらでもないにおいもある
- 置いておくだけは、いちばん条件が悪い。冷蔵庫の比較テストでは活性炭のほうが明らかに優れていた
- おむつ・サニタリーは、においの中心がアンモニア。重曹より、密閉と早く出すこと
- 靴、生ゴミ、布、拭き掃除は直接触れられるので条件がそろう
- 精油は覆っているだけ。猫のいる家庭では避ける
強いにおいをすぐに何とかしたい場合は、その用途で作られた製品のほうが向いています。重曹でできるのは、条件がそろったところまでです。

参考文献
- America’s Test Kitchen / Cook’s Illustrated「A More Effective Fridge Deodorizer」(重曹と活性炭を小型冷蔵庫で1か月比較したテスト)
- 「炭酸水素ナトリウム」『化学辞典(第2版)』森北出版 ― 溶解度、加熱による変化
- Ara K, Hama M, Akiba S, et al. Foot odor due to microbial metabolism and its control. Canadian Journal of Microbiology. 2006;52(4):357-364. doi:10.1139/w05-130
- 消費者庁「雑貨工業品品質表示規程(二十七 合成洗剤、洗濯用又は台所用の石けん及び住宅用又は家具用の洗浄剤)」(塩素ガスに関する「まぜるな危険」の表示)


